センス オブ ワンダー

 

【センス オブ ワンダー】

 

この言葉を人生で一番最初に教えてくれたのは短大時代にお世話になったアメリカ出身の教授でした。

 彼が卒業に際して送ってくれたこの言葉が以後ずっと、私の心に棲み付くいています。この本の作者のレイチェル・カーソンは1962年、著書「沈黙の春」で農薬や化学物質による環境破壊の実態に世界に先駆けて警笛を鳴らしたアメリカの海洋生物学者であり、ベストセラー作家です。

 この本が伝えているのは、癌を発病したレイチェルが、死の間際に残したメッセージ。

それは、子供達の心に「センス オブ ワンダー」(神秘さや不思議さに目を見張る感性)を育むことの大切さでした。

夜空の星の輝き、植物の芽吹きや潮の満ち引き・・・当たり前に思えるような目の前の現象は、かけがえのない命の輝きと自然の神秘に満ちていることをあらためて気付かせてくれます。

レチェル・カーソンの信念が美しく詩情豊かな文体となり、いつまでも心に残ります。
 

「センス オブ ワンダー」
著者 / レイチェル・カーソン
訳 / 上遠恵子

 
Text and Editing_Masami Araki / Myoujou Library
photo_Koshi Asano / Office Presence

 

私の献立日記 / 沢村貞子

【私の献立日記 / 沢村貞子】

hakobuneから紹介する本やアート、文化と学び

ここではhakobune編集のmyoujouが個人的趣味によりご紹介する、最近読んだ本、訪れた展覧会や場所などをご紹介しています。

今回の一冊は「私の献立日記」です。

「今日一日、何を食べるか。」は生きている限りの永遠のテーマです。

この本は、女優であり随筆家の沢村貞子(1908-1996)が27年間に渡り、その日作った毎日の献立を記録し続けたもの。

始まりは、女優としての多忙な日々の中で「食べることの大切さ」を夫との暮らしを第一とした、生活者としての必要から。

そのノートは36冊にも及んだと言います。書かれた献立の中でも主菜よりも付け合わせの方が気になったりします。

この先もこの本を側に置いて折に触れて読み返し、「ちゃんと作ってちゃんと食べよう。」と何度でも思うことでしょう。

私の料理虎の巻であり、暮らしのお手本となる一冊です。

そして私自身もこの本を読み終えた翌日から、その日の献立を記録し始めました。亡くなられて20年以上を経た今も、現代に生きる私達に「暮らし」を教えてくれています。

 

「私の献立日記」/ 沢村貞子 著 中央文庫
 

あらきひろみちさんとアトリエ

【あらきひろみちさんとアトリエ】
 
 
田原市中山町、植物に覆われて悠然と建つドーム型の建物があります。「あらき先生」と地域の人から呼ばれ、親しまれた高校の美術教師であり美術家の故・あらきひろみちさん(1935-2006)がセル フビルドで建てたコルゲート建築によるアトリエです。

あらき先生は教職中から定年後、亡くなる直前まで多くの作品を発表する傍ら、渥美半島をこよなく愛し、地域の文化振興や自然保護などジャンルを超えた創作活動を続けました。

残されている風景画や渥美半島の作家、故・杉浦明平さん (1913-2001)の執筆作品の描いた挿絵は渥美の風土がそのまま表われているような素朴で味わい深さに溢れ、地域の人はその作品を通して地元の風景への愛着を感じる。まさに文化と地域の人との橋渡しをしていたような活動でした。

「自力更生・独立自主」。

アトリエの内部に大きく掲げられた自筆の言葉です。

何でも自分で考え勉強し、自身の手で作ってきたあらき先生。

建築に対する探求もその一部で、1974 年にはバックミンスター・フラーの構想によるフラードームのアトリエを建て、現在のコルゲートパイプのアトリエは1995年に建てられました。

 
コルゲート建築
ー楕円と六角形の鉄の家ー

 
 
コルゲートパイプの建築・鉄の家を考 案したのは豊橋市在住だった科学者で設備設計家、世界的エンジニアの故・川合 健二さん (1913-1996)。

川合さんとあらきさんは30年以上に渡る交流があり、共に科学や、自然と共存する未来のエネルギーシステムなどについて学び合っていた仲間だったとのこと

世界で最初に建てられたコルゲートパイプの家は川合健二さんの自宅であり、異次元の世界からやってきたかのような圧倒的な姿のまま、豊橋市内に静かに建っています。

「コルゲー トパイプ」とは波型の鉄板をボルトで止めて楕円型にしたもので、通常は下水管やトンネル工事などに用いられる。災害に強く環境に優しく、且つコストがかからない建物や暮らしを、川合さんもあらきさんも全て独学で研究してきました。

先人たちの生きた時間が詰まったこのアトリエが今でも私たちを学ばせ、未来へのヒントを語り続けているかのようです。
 
 


アトリエ内部の様子

 
 

アトリエに残るあらきさん自筆のメモ書き