「エア建」第二回 ”見るための行為〜ある美術家の痕跡とアトリエ〜”を終えて


「鉄のアトリエで、見ること・想像することの共同作業」

5月14日(日)、ガラス造形作家、インスタレーションアーティストとして活躍する田口友里衣さんをナビゲーターとして迎え、第2回「エア建〜見るための行為〜」が開催されました。
 


 

「エア建」・・・「新しい視点」を持つことで、普段見えていたものがこれまでとは違った価値観を持って立ち上がる。立ち上がった想像や発見を「建築」とし、建物や街、ものの造形や暮らしと自分を見つめ、シェアしていくことを「エア建」の趣旨とする。

第二回のこの日の場所は、明星から徒歩5分ほどのところに建つ、故・あらきひろみちさんのコルゲート建築によるアトリエ。

様々な方面で創作、発信し続けた美術家あらきひろみちさんが見ていたもの、アトリエで行われていたことなどを、建物やそこに遺されている痕跡から想像しながら「見る」ことを深めていきます。

「付箋」

田口さんから渡されたのは「付箋」。

参加者は一人ずつ色の違う付箋を持ち、アトリエ内、または外で発見した自分の気になる建築構造の部分や置かれているものに、言葉を添えて貼っていく作業を進めました。
アトリエ内はカラフルな付箋でポップに彩られていきます。

その間にも、田口さんは自身の作品制作として、アトリエの壁にある傷跡をフロッタージュしていました。

アトリエが留める時間の記憶を描き写す行為のようなフロタージュ。

その後、鉄で出来た楕円構造のコルゲートパイプのアトリエ内にみんなで座り、それぞれが「見た」ものへの感想や想像したことについて語り合いました。

「美術家・あらきひろみちさんとそのアトリエ」

地域の人には「あらき先生」と呼ばれ、親しまれたあらきひろみちさん(1935ー2006)は、高校の美術教師として定年まで務め、画家として多くの作品を発表し、渥美半島の作家、故・
杉浦明平さんの執筆作品の挿絵を描いたり、渥美焼きの復興に尽力するなど、地域の文化や美術のことには全てにおいて関わってこられたような人でした。

また自然や旅、音楽を愛し、アトリエ内でもチェンバロやギター、馬頭琴などの演奏会の企画もされ、地域の文化の土壌を豊かにしようと活動し続けてこられました。あらき先生との出会いの中で生きる上での多くの示唆を受けてきた人、教え子さんは数え切れないほどいらっしゃることと思います。

1974年には、バックミンスター・フラーの構想案によるフラードームのアトリエを建築し、現在建つコルゲートパイプのアトリエは1995年にセルフビルドにより建てられました。

コルゲートパイプの建築・鉄の家を考案したのは、1996年に亡くなった、豊橋市在住の世界的な設備工学者、川合健二さん。川合さんとあらき先生は30年以上に渡る交流の中、共に科学やエネルギー、自然との共存や未来について語り、学び合っていた仲間でした。
 

コルゲート建築ー楕円と六角形の鉄の家ー

現在も豊橋市内に悠然と建つ日本で最初のコルゲートパイプの家は、川合健二さんにより1966年に建てられました。(あらき先生のアトリエは日本で3番目のコルゲート建築。)

「波型」という意味を持つ「コルゲート」。コルゲートパイプとは、波型の鉄製板(厚さ2.7ミリ)をボルトで止め、楕円型の形状にしたもので、通常は下水管やトンネル工事などに用いられています。

独学で科学やボイラー、空調設備を学び、未来に向けたエネルギーシステムを考え続け世界各地で仕事をした川合さんが目指した住居は

・災害に強く、リサイクル出来、施工が簡単、丈夫で長持ちし、コストがかからない、こと。

その条件に見合う素材が「鉄」でした。亜鉛塗料を施した鉄(厚さ2ミリ以上の時)は半永久的に錆びず、また基礎で建築を地面に固定させずに敷いた砂利に乗せ、埋めるように置かれていることで、地震の振動の影響を逃れるとのこと。

 これまでになかった発想をし、当時の建築、設備業界からは異端児とされた川合さんの「何でも自分の頭で考えること」、「独立自主」の考えはあらき先生の生き方ととても響き合い、アトリエの建築や生涯の創作のインスピレーションにも繋がったのだと思います。

 
「見ることのシナジー」

アトリエに付箋を貼った後の皆さんとの「見ること」のシェアの中では一人一人の視点、見ていた場所、事柄がこんなにも多様で違う、ということに驚きました。

それぞれが語る「視点」についてシェアし合っていく内に、あらき先生の人柄や思想などが徐々に浮き上がってくるようでした。

かれこれ、このアトリエに通って10年になる私ですが、参加者さんの気付きにより、この日初めて発見したことがいくつもあります。
その一つは、アトリエ奥の間の天井裏に書かれていた「シナジー」についての言葉(メッセージ)。

「相互作用」とか「共同作業」という意味の「シナジー」。

まさに「エア建」で行われたことは「見ること、想像することの共同作業」でした。